特殊ガラスの光学ガラスメーカー、オハラの躍進の秘密は?

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超大型望遠鏡「TMT」(Thirty Meter Telescope、30m望遠鏡)が、ハワイ・マウナケア山頂に建設が予定されています。

アメリカやカナダ、中国、インド、そして日本が計画に参加しています。

この望遠鏡は、その30mという大きな口径によって、宇宙の始まりや太陽系外の惑星などを

観測することができるため、ノーベル賞級の発見がもたらされると期待されています。

しかし、口径30mのTMTは、主鏡の直径もまた30mと巨大です。

それほど大きな一枚鏡を造ることは難しいため、492枚の鏡に分割し、それを並べることで主鏡を構成します。

もし、鏡1枚1枚の精度が甘ければ、光が歪み、観測することができなくなるのです。

その精度にとって大敵となるのが熱なのです。

観測時に温度の変化によって鏡が伸縮すれば、それによって歪みが生じます。

そこでTMTの主鏡には、温度が変化しても伸縮しない「ゼロ膨張ガラス」が使われています。

この特殊ガラスを開発したのは、日本の光学ガラスメーカーの「オハラ」です。

光学ガラスメーカーの「オハラ」

株式会社オハラは、1935年日本で最初に設立された光学ガラス専業メーカーです。

光学ガラス分野では、世界でも代表的なメーカーとなっています。

創業者の小原甚八は昭和10年に蒲田に個人事業として小原光学硝子製造所を設立しました。

設立当時にその資金を提供したのが服部時計店(現在のセイコーホールディングス)です

第二次世界大戦終戦まで、情報戦の主役は光学兵器でした。

戦時中、小原光学硝子は多くのメーカーに光学ガラスを供給しています。

それで、太平洋戦争の全期間を通じガラス生産量は国内最大でした。

終戦によって需要が激減し、小原光学硝子の経営は危機に瀕しました。

その時期に手がけたのが装飾用クリスタル・ガラスです。

これは現在でも人気を博し製造が続いています。

1944年(昭和19年)2月に株式会社に改組し、現在の所在地である神奈川県相模原に工場を新設しました。

小原光学硝子の名を上げた製品が、1975年(昭和50年)に生産を開始した低屈折低分散ガラスFK01です。

これはいわゆる異常分散ガラスといわれるガラスの走りです。

従来の光学ガラスより色収差を軽減できるものなのです。

以後、FK01を使ったカメラ用レンズや天体望遠鏡などの新製品が続々と登場します。

1985年(昭和60年)に、社名を株式会社オハラに変更しました。

同社の「ゼロ膨張ガラス」は、世界に3つある超大型望遠鏡計画のうち、30メートル望遠鏡(TMT)、巨大マゼラン望遠鏡(GMT)の2つに採用されました。

このゼロ膨張ガラスは、長さ1メートルの場合、温度が1度変化しても0.00002ミリ以下しか変化しない といいます。

「ゼロ膨張ガラス」とは?(クリアセラム-Z)

一般的に大半の物質は、熱が加わり温かくなれば膨張します。

猛暑日にレールがゆがむのも、この熱によるレールの膨張のせいです。

通常のガラスも同様に、熱が加われば膨張します。

クリアセラム-Zは、そこに温度が上がると逆に縮む、”負の膨張特性”をもつ特殊な結晶を混ぜることで、、温度が変化してもほとんど変形しないようになっています。

もちろん、ただ混ぜればいいというものではありません。

通常のガラスは、珪砂、ソーダ灰、石灰石といった物質を、高温の炉で溶かして作ります。

クリアセラム-Zの場合は、そこに負の膨張特性をもつ結晶を生み出す物質を混ぜ、結晶を生み出しやすくしたり、溶けやすくしたりするための金属酸化物を10成分以上も混ぜています。

どんな物質をどれくらい混ぜ込んでいるのかというのは、企業秘密ですね。

さらに、炉で熱する方法やその時間などのノウハウも企業秘密です。

アニール(除冷)工程

一度溶かしてガラス化したあと、そのガラスをさらにもう一度熱する工程があります。

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この再加熱の段階で、内部に負の膨張特性をもつ結晶が作り出されます。

この作業には1か月半もかかるそうです。

このとき内部では、ガラスの「膨張しよう」という動きと、結晶の「縮もう」とする動きがせめぎ合っています。

そこで、急速に熱したり冷やしたりすると、爆発したり、歪みが生じたりしてしまうそうです。

そのため1か月半という時間をかけて、ゆっくり、じっくりと熱して、なじませていきます。

さらに、品質基準を測定し品質を保証する作業も、特殊な計測機器を使って行うのです。

原料の段階から完成までは約3〜4か月、通常の光学ガラスの2〜3倍以上もかかります。

担当者は言います。

「宇宙のことを知ろうとするのは、知らないことを知りたいと願う、人間の根源にある欲求だと思っています。とくにTMTは、地球外生命やダーク・マターの発見という、ノーベル賞級の発見に挑もうとしています。そこに貢献することのおもしろさ、やりがいを感じています」

ダーク・マター

暗黒物質とも呼ばれる。この宇宙における質量の約68%を占めるとされる物質のこと。
ただし観測されたことはなく、あくまで仮説上の存在である。
ちなみに残り27%は「ダークエネルギー」と呼ばれる正体不明の物質で、私たちに何らかの形で姿を見せている物質は、その残りのわずか5%と考えられている。

耐放射線ガラス

2011年、不幸にして起こってしまった東日本大震災。

これによって福島原発のメルトダウンが起こってしまいました。

現在もその処理に莫大な費用を投じて現状回復に努めています。

しかし放射能汚染された施設には生身の人間では近づけません。

そこで活用されているのが撮影機能を持ったロボットです。

原子力関連施設や宇宙環境などの放射線環境下において状況を詳細に観察するためには、カメラなどの光学機器を直接その環境下へ設置が必要です。

しかし、一般の光学ガラスを使用すると、強い放射線のために次第に変色してしまいます。

オハラは,高放射線環境下でも透過率劣化が小さい光学ガラスの販売を開始しました。

このガラスではトータル放射線量が2MGyでも劣化が殆どないといいます。

原子力関連施設や宇宙環境など高線量下で用いられる視覚・計測機器への適応を可能にしました。

まとめ

ゼロ膨張ガラスの開発には30年の年月がかかっています。

対放射線光学ガラスに至っては50年前から開発、販売、中止の歴史を辿っています。

2011年の東日本大震災の福島原発の件で対放射線光学ガラスが復活したそうです。

しかし、当時の開発メンバーがいない中で、残っていた資料を基に研究を再開しました。

そして、2015年に研究開発の精鋭チームが30年ぶりに復刻に成功しました。

この研究は福島にとどまらず宇宙での活用に広がりました。

代表的な例がはやぶさ2の観測カメラに採用されていることです。

これらは、いま求められているもの作ることだけでなく、将来の需要を見つめて必要なものを作っていく。

そんな先人の先見の明が、オハラの特殊ガラスづくりを支えているようです。

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