大阪市に本部を置く大衛株式会社は、「アメジスト」ブランドで知られ、医療衛生材料の製造と販売、及び輸出入を手掛けています。本社を含め、国内外に複数の拠点を持ち、主に病院向けに製品を提供しており、産科医療用品で高い市場シェアを誇っています。
現在、同社の代表を務めるのは、四代目の社長、加藤優氏です。彼が入社した際は、膨大な赤字と停滞する組織、そして大量の在庫に直面しました。
1951年に設立されたこの会社は、当初は基本的な衛生材料を製造・販売していましたが、1957年には吸収性を高めた生理用品を開発し、これが大ヒットとなりました。しかし、大企業の参入により市場環境が変化し、会社は産科・病院用の製品へとシフトを余儀なくされました。新たな販路を開拓し、産婦人科分野での地位を築き上げたのは、加藤優氏の祖父である二代目社長、加藤勉氏でした。
優氏自身は、家業に対して特に意識を持たずに育ち、京都大学薬学部および大学院で学びました。その後、伊藤忠商事に入社し、国際的なビジネスを展開していましたが、祖父の葬儀での出来事が家業への意識を変えさせました。参列者からの「家業を継ぐべきだ」との言葉に心動かされ、家業への関心を強めていきました。
伊藤忠商事での経験は、多くの中小企業の経営者と接する機会を与え、経営の難しさや改革の必要性を学びました。これが、事業継承に向けた意識を高めることにつながりました。
2014年、家業を継ぐ決意を固めた優氏は伊藤忠商事を退職し、大衛株式会社に入社。入社直後から現場勤務を希望し、組織の実態を理解するため三重県津市の工場で働き始めました。そこで目の当たりにしたのは、無駄な在庫管理と組織の非効率でした。これを背景に、組織改革の必要性を強く感じました。
部門間の連携が欠けていたために発生していた無駄を排除し、「全体最適」の視点から業務効率を向上させることが求められました。優氏は、現場での経験を生かし、上層部に対して問題提起を行いながら改革を進め、最終的に取締役として組織改革に本腰を入れることになります。」
加藤優氏は、伊藤忠商事での国際的なビジネス経験を経て、2014年に家族経営の大衛株式会社に入社しました。会社の将来に危機感を抱いた彼は、組織改革を推進することを決意します。取締役に昇進した2016年からは、改革を本格的に進めるようになります。
製造部門と営業部門の間のコミュニケーション不足を解消するため、加藤氏は両部門の責任者と個別に話し合い、その後三者で具体的な協力体制を確立しました。また、製品開発部門と営業部門も同様の連携強化を行い、市場のニーズに即した製品開発を進める体制を整えました。
開発部門が特定の医師の要望に基づくあまりに特化した製品を作ることが売上不振を招いていたため、営業部門との間でニーズとウォンツを共有し、製品が市場で受け入れられるよう改善しました。このアプローチにより、両部門間の隔たりが縮まり、より効率的な製品開発が可能となりました。
購買部門と開発部門の連携も強化し、共に海外の製造現場を訪れることで、コスト削減と品質向上の両方を目指しました。さらに、部門間の人材の交流を促進し、異動を通じて多角的な視点を持つ人材を育成しました。
加藤氏は、組織内の席次や配置も調整し、部門間のコミュニケーションを促進する環境を作り出しました。これらの取り組みにより、組織全体の協働がスムーズに行われるようになり、全体としての業績向上につながりました。
また、取引先の銀行との関係再構築にも力を入れ、信頼を築き直すために多大な努力をしました。その結果、以前は赤字が続いていた会社の財務状態が改善し、黒字化を実現しました。
少子化の影響で厳しい市場環境に直面している中、加藤氏は新たな事業機会を模索し、総合病院向けの新商品開発や海外展開、電子商取引を含む新たな販売チャネルの開拓に成功しました。特に手術用ガウン「セルフガウン」の開発は大きな成功を収め、国内外で高い評価を受けました。
2021年には社長に就任し、現場からの声を重視する経営を続けています。彼は組織内の意思疎通を大切にし、常に会社の将来を見据えた革新的な試みを続けており、持続可能な成長を目指しています。
まとめ
大衛株式会社は「アメジスト」ブランド名で知られる医療用衛生材料の製造及び販売、関連商品の輸出入を行っています。この会社が経営危機から立ち直った主な要因は以下の通りです:
1. 組織改革と部門間の連携強化:加藤優氏が入社後、組織改革に着手し、特に製造部門と営業部門間の連携を強化しました。これにより、部門間でのコミュニケーションが改善され、製品開発の効率が向上しました。
2. ニーズとウォンツの調整:製品開発部門と営業部門が協力し、市場のニーズとウォンツを明確に定義し、実際の顧客の要望に基づく製品を開発することで、在庫の問題を解決し、売上を向上させました。
3. 海外展開と新市場の開拓:海外、特にベトナムなど新興市場への展開を強化しました。また、新しい製品ラインを開発し、総合病院や個人向け市場にも販売を拡大しました。
4. 信頼関係の再構築:銀行やその他の金融機関との信頼関係を再構築し、より良い資金繰りと財務安定を実現しました。
5. 人材育成と異動制度の導入:部門間での人材交流を促進し、異なる部門の知識と経験を持つ人材を育成することで、組織全体の柔軟性と対応能力を高めました。
これらの改革により、大衛株式会社は経営危機を乗り越え、持続可能な成長を遂げることができました。