南九州に広がる火山灰の多い土地は、日本でも屈指のさつまいも生産地です。その地で大規模な農業事業を展開する「くしまアオイファーム」は、国内で最も多くのさつまいもを出荷しています。
経営理念は「何時の時代も農業者の立場は弱い。休む間はなく、品質は天候に、価格は市場に左右され、こんなに地味 で辛くリスクの高い仕事を誰がするだろうか。今、国内農業者の平均年齢が65歳を超えている。誰かがや らなくてはいけない。選択肢はない。俺達がやるしか無い。強い志で、時代を超え、しがらみを超え、俺 たちは肥えていく。農業者よ。凛とあれ。必ず、強い農業はこえていく。」
創業者
創業者である池田誠氏は1970年、農家を営む宮崎県串間市の家庭に生まれましたが、若いころは農業を継ぐ意向がありませんでした。地元を離れて関西地方で就職しましたが、数年後、父親の末期がんの診断を受けて帰郷し、父の死を経て農業を継ぐ決意を固めます。
当初は約3ヘクタールの土地から始めた事業は、10年で37ヘクタールに拡張し、生産効率を向上させる方法を模索しました。2011年には、独自の販売戦略を立てるため農協への出荷を止め、直接スーパーや商社に営業を行い始めます。
特にさつまいもに特化し、品質の高い串間産のさつまいもを全国ブランドへと押し上げる計画を実施しました。地道な営業活動が功を奏し、九州内外のスーパーとの取引を確立しました。また、海外市場にも目を向け、特に香港やシンガポールでの需要に応えるため、現地での試食会を開いたり、小型のさつまいもの生産に切り替えたりしました。
「くしまアオイファーム」を法人化
経営が順調に進む中、家族だけでの運営には限界を感じ、2013年に「くしまアオイファーム」を法人化。多様なバックグラウンドを持つ新しい社員を採用し、生産体制や販路の拡大に努めました。技術革新も進め、包装技術の改良や貯蔵設備の導入により、品質管理を強化しました。
このようにして池田氏は、地元の伝統的な農業を現代的なビジネスに転換し、地域社会に新たな活力をもたらしました。彼のリーダーシップと革新的な取り組みは、さつまいも産業の発展に大きく寄与しています。
海外進出
池田氏の経営戦略は、地元だけでなく国外にも目を向け、さつまいもを使った製品を拡大していく方針を固めました。特にアジア市場では、日本のさつまいもの品質が評価され、高級スーパーで高い値段で取引されるようになりましたが、農家の収入はそれほど向上していませんでした。これに疑問を感じた池田氏は、直接取引を増やすことで農家の利益を改善しようと試みます。
彼は自ら香港やシンガポールに足を運び、現地の市場調査を行い、需要に応じたさつまいものサイズ調整や品種改良に努めました。また、廃棄されがちな小型のさつまいもも市場に出すことで、無駄を減らし収益を上げる方法を模索しました。
ビジネスモデルの確立
これらの改革により、くしまアオイファームは国内外での販売網を広げ、さつまいもを中心としたビジネスモデルを確立。多くの新しい雇用を創出し、地域経済にも貢献しました。また、池田氏は農林水産大臣賞を受賞するなど、その業績が広く認められるようになります。
さらに、新型コロナウイルスの流行にもかかわらず、さつまいもを使用したスイーツブームの波に乗り、事業をさらに拡大。2030年までには、さつまいも事業で100億円を目指すという野心的な目標を掲げています。
池田氏のリーダーシップの下、「くしまアオイファーム」は地域社会に深く根ざしたビジネスとして発展を続けています。彼のビジョンと経営手腕により、さつまいも生産はただの農業から高度なビジネスモデルへと進化しました。これは地元の経済に大きな恩恵をもたらし、他の農業事業にも影響を与える模範となっています。
持続可能で効率的な生産方法
事業の拡大とともに、池田氏はより持続可能で効率的な生産方法を追求し続けています。環境への影響を最小限に抑えながら、生産性を高める技術を導入し、地元だけでなく全国の農業スタンダードを向上させることに貢献しています。
また、彼の経営は単に生産量を増やすことにとどまらず、製品の質の向上、新しい市場への進出、そして社会的な責任を果たすことにも重点を置いています。これにより、くしまアオイファームは地元串間市だけでなく、国際的な市場でも高い評価を得ています。
池田氏はまた、地域の若者に農業の可能性を示し、次世代の農家に対する教育と指導にも力を入れています。彼の取り組みにより、多くの若者が農業に興味を持ち、新たな技術やアイデアを農業に取り入れることが増えています。
これらの努力は、持続可能な農業と地域社会の発展を支える重要な要素であり、池田氏の事業は多くの人々にとって希望とインスピレーションの源となっています。彼のビジョンは、地元串間市から始まり、日本全国、さらには海外にも影響を与えるほどに広がっています。
まとめ
池田氏の道のりは、彼自身が直面した困難や挑戦の連続でありながら、それを乗り越え、成功を収めることで、多くの人々にとってのロールモデルとなっています。彼のストーリーからは、持続可能な未来への道を切り開くためのヒントや勇気を見出すことができます。
池田氏の成功は、ただ単に経営を軌道に乗せたわけではなく、常に挑戦し続ける姿勢と革新を追求する心構えが、多くの人々に影響を与えています。彼の物語は、困難に立ち向かい、未開の道を切り拓くリーダーの典型と言えるでしょう。