広島市の捨てないパン屋「ブーランジェリー・ドリアン」、食品廃棄を減らす試みで経営不安も解消

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食品業界においては、食品廃棄を減らすために各企業が工夫を凝らしています。広島市にある捨てないパン屋、「ブーランジェリー・ドリアン」もその一例で、この店は3代目の店主とその妻によって経営されています。以前、この店では売れ残りのパンが多く廃棄され、利益も少なく将来への不安がありました。しかし、2015年の改装後、廃棄するパンがなくなり、経営の不安も解消されました。どのような変化があったのでしょうか。

捨てないパン屋 手を抜くと、いい仕事ができる→お客さんが喜ぶ→自由も増える

ブーランジェリー・ドリアンの変遷

このパン屋はもともと戦前に祖父によって創業された甘納豆屋で、父がパン部門を引き継ぎました。1960年には店頭販売を始め、大きな成功を収めました。

現在の三代目店主は子供の頃からパン屋を継ぐことに反発し、大学で全く関係のない分野を学び、モンゴルでの経験もあります。しかし、2003年に店の困難を知り、一時的に手伝うことにしました。

改装後、当初は成功しましたが、利益は上がらず、売れ残りのパンの廃棄も問題でした。解決策を求めてヨーロッパへ渡り、特にウィーンのパン屋での経験が彼の考え方を変えました。効率的な作業方法と素材の質の重要性を学びました。

ブーランジェリー・ドリアンのパンづくりは、フランスの伝統的な製法です。前日の残り生地から起こしたルヴァン種を使って、粉と塩と水のみのシンプルな素材でこね上げ、薪の石窯で焼く製法です。徐々に温度の下がっていく石窯でじっくりと時間をかけて焼く事により、皮が焼き込まれ、中の水分は閉じ込められ、香りが良く、日持ちの良いパンが焼き上がります。

ブーランジェリー・ドリアンのパン作りにおける「ルヴァン」の使用と、その特徴についての詳しい説明は次のようになります。

ルヴァン(Levain)とは?
ルヴァンは、フランス語で「天然酵母」や「種麦」と訳されることがあります。
これは、小麦粉と水を混ぜて自然発酵させたもので、市販のイースト(酵母)を使わずにパン生地を発酵させる方法です。
ルヴァンは、時間をかけて自然発酵させることで、生地に独特の風味と質感をもたらします。

 どのように作られているの?

ドリアンでは、このルヴァンを使用してパンを作ります。
通常、前日に作られた生地(またはルヴァンの一部)を新しい生地に混ぜ込み、発酵させることで独特の風味を生み出します。
この方法では、パンがより長く発酵するため、パンの味わいや質感が向上します。

乳酸菌の働きとグルテン分解
生地の発酵過程で、乳酸菌が活発に働きます。
乳酸菌はグルテン(小麦のタンパク質)を分解することにより、パンの旨味を増やす効果があります。
また、グルテンの分解は、消化しやすいパンになることも意味しています。

保存性の向上
ルヴァンを使用したパンは、自然発酵による酸の働きで、保存性が高くなります。
これにより、パンは長持ちし、風味の劣化が遅れます。

熟成による味の変化
ドリアンでは、焼きたてのパンをすぐに食べるよりも、数日置いてから食べることを推奨しています。
時間が経過すると、パン内の風味がより深まり、香りが高まります。
この熟成により、パンはより複雑で豊かな味わいを楽しむことができます。

このように、ブーランジェリー・ドリアンのパン作りは、伝統的な技術と現代の消費者の好みを融合させており、品質と味わいの高いパンを生み出しています。

三代目店主田村陽至氏

日本へ戻り、ヨーロッパで学んだことを取り入れた再開後、店は国産の高品質な材料にこだわり、商品ラインナップを絞り込みました。廃棄を減らすために、売れ残りのパンを割引価格で翌日売るようになり、売れ残りのパンを異なる店で順に売る「リレー販売」も導入しました。

オンライン販売や定期購入の導入により、売れ行きが安定しました。店主の労働時間も短縮され、コスト削減とおいしいパンの製造が可能になりました。

この結果、店の年間売上は2500万円に達し、顧客と有機小麦農家も満足しています。店主は後進の育成と情報交換にも積極的です。

この事例は、成功している他業種の事業手法を学ぶことの重要性を示しています。ヨーロッパのパン屋から学んだ方法を取り入れることで、廃棄問題や労働問題を解決し、経済的な成功も収めたのです。

田村陽至氏の哲学は、彼が経営するブーランジェリー・ドリアンの運営方法やパン作りのアプローチに深く反映されています。主な要点は次の通りです。

1. シンプルな製造方法: 田村氏は、パン製造のプロセスをシンプルに保つことに重点を置いています。このアプローチは、労働時間を削減し、生産性を高めることに貢献しています。

2. 高品質の材料の使用: 彼は最高級の材料を使用することを重視しています。これは、手間と時間をかけてB級の材料を使うよりも、手を抜いて最高級の材料を使う方が、作るのも楽で価格も安く、かつ断然美味しいという考えに基づいています。

3. 環境との調和: 環境問題に関心を持ち、大学で環境問題を学んだ田村氏は、自然と調和するビジネスモデルを目指しています。これは、パンの材料選びや製造方法にも反映されています。

4. 「捨てないパン屋」の実践: 食品ロス削減に対する強いコミットメントから、ドリアンは「捨てないパン屋」として知られています。これは、必要な量だけを生産することにより実現しています。

5. 仕事と生活のバランス: 田村氏は、仕事だけでなく、生活にも重きを置く働き方を重要視しています。これには、自分自身が幸せな働き方・暮らし方をすることに加えて、周囲の人々への配慮も含まれています。

6. 本質的な価値の追求: 彼は、見た目の飾りや余計なものを加えることではなく、無駄を省いて本質を磨くことに価値を見出しています。これは、パン作りにおいても同様で、シンプルだが質の高い製品を目指しています。

7. 地域社会との関係: 地元のコミュニティとの強いつながりを大切にしており、地方でのビジネス展開においては、地域特有のニーズや特性を考慮しています。

田村氏の哲学は、単に高品質なパンを製造することだけでなく、社会的な価値と環境への配慮、そして人々の生活の質の向上に寄与するという広範なビジョンに基づいています。

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